追憶 ―箱庭の境界―
「鬼さんの赤い実が…熟れて落ちちゃうよ!消えちゃうよ!?」
『………』
少女は小さな拳を握りしめて、懸命に我に伝えた。
何故、少女は戻って来たのか。
其の為に、
此の場所まで戻って来たのか。
「…お婆さん、こうも言ってた。定めに従う鬼さんに感情は無いし、考えはしないけれど…。その事は知っているはずだって。」
『……我ハ、知ッテイタ?』
あぁ…
知っていたかもしれない。
そう教えられたかもしれない。
花の匂いのする風は、
其の事を言っていたのかもしれない。
少女は我に歩み寄り、
小さな手を差し出した。
「…ねぇ、あたしを捕まえていいよ?」
『…何故…』
「鬼さんが消えるのは寂しいから、放って置けないんだよ。あたしの手を触っていいよ?」
『…出来ナイ…』
「…ねぇ。あたしを、次の鬼にしていいよ?」
『…ダカラ…出来ナイ…』
「…どうして?」
拒否を続ける我に、少女は涙を溜めてそう首を傾げた。
…何故だろうか。
差し出された手は、他の鬼にとってはさぞ魅力的に見えるのだろう。
我は、
繋ごうとは思わない。