追憶 ―箱庭の境界―


「…鬼さんは自分の心の中に何が入っているかを知っているから、そんな事を言うんだわ!心を取り戻すのが恐いのよ!弱虫なのよっ!」

『……ヨワ…ムシ…?』


何故か耳に残る言葉だった。
先程の風にも言われた様な気がした。
更には情景の中で、あの青年にも向けられていた言葉だ。

違う。
我は弱虫なわけではない。


『…我ハ、モウ体ノ自由ガナイ。樹ニハ登レナイ…』

足が消え始めている。
我は赤い実を採ろうにも、もう樹には登れないのだから。


「…じゃあ、あたしが樹に登るわ!あの実を採ってくるから!」

『……何故…』

少女は何故、我に関わるのか。
我には幾ら考えても解らない。

興奮気味に我の横を通り、少女は樹の幹に手を掛けた。


我は先日の少女の言葉を、ふと思い出して言った。


『…赤イ実ヲ食ベズ、楽園ニ居ル方ガ幸セカモシレナイト、言ッタ…』


そう言ったではないか。
何故、赤い実を食べさせようとするのか。


「…それは!鬼さんが消えちゃうなんて知らなかったからよ!消えちゃうなら、幸せなはずないじゃない!駄目よ!」


我は、
其れを望んでいたのだろうか。


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