追憶 ―箱庭の境界―
我の赤い実が、
熟れに熟れて揺れている。
『……登ルナ…、採ルナ…、赤イ実ニ触レルナ…』
「無駄よ!あたしは登るわ!」
少女は何度も地面に滑り落ちながらも、泥だらけになった体で樹に登る。
実の中身が溢れんばかりに重みを持ち、風たちが其れを弄ぶ様に実を揺らす。
風が落とす方が先か。
其れとも少女の手に触れる方が先か。
まるで風と少女が競い合う様な樹の上での光景を、我は虚ろな瞳で見上げていた。
『……ァ…。』
其の光景が、掠れる。
光景が「情景」に、変わる。
今にも少女に触れられてしまいそうな「我の心」が、
静かに静かに…
悲鳴をあげている様だった。
『…食べたら…、楽園を追放されてしまうのかしら。あのお話みたいに…。心を無くして苦しみも知らずにこの草原に居る鬼さんの方が、幸せなのかもしれないな…』
其れは、少女の言葉。
…今は、
我も、そう思うのだ。