追憶 ―箱庭の境界―
シオンを追放された青年は、燻る思いを胸にしたまま、此の先に自分はどうしたら良いのか頭を抱えていた。
「アン!…アンネ!僕はどうしたらいい!?僕はこの先、どうしたらいい!?」
目的が遂げられなかった青年の心は、不安定なままだった。
「…リフィル様を救えない!僕は救えない!昔と変わらず、僕は無力なままなのですか!?ねぇ、アンネ!」
青年は人の姿をした黒猫にすがり付く様に、女の膝の上で子供の様にそう嘆く。
青年の膝の上で黒猫が身を丸める事はあっても、黒猫の膝にすがり付く事は今までに無い。
「…マルク…。マルク、聞きなさい。貴方は昔とは違う!無力なんかじゃないわ?サザエルに…戻りましょう?」
「……!?今の僕に何が出来ます!?リフィル様に合わせる顔が無い!!」
黒猫は青年をなだめる様に肩を抱き、背中を擦り続けた。
「無力じゃないわ…。貴方にしか出来ない事が必ず在る。それを確かめる為にも、サザエルへ…」
瞬間移動。
一度でも足を運んだ場所であれば、其の地に移動する事が可能だった。
「……あの樹が、見たい…」
青年は、王女と出逢い、無邪気な時期を過ごした樹の下を選んだ。