追憶 ―箱庭の境界―
(…懐かしい…)
其の樹の下で、
黒猫を胸に抱いた青年は、桃色の花びらが降る様を目を細めて見上げていた。
「……あぁ、花びらは変わらない。でも…この樹、こんなに小さかったですか…?」
穏やかな懐かしい光景に、青年の心は落ち着きを取り戻していた。
にゃあ…
『…あら、そうかしら。何も変わらないわよ?』
「そうですか?昔は、もっと樹の大きさに圧倒されたような…」
黒猫は青年の腕をすり抜け、桃色の花びらで出来た絨毯に着くと、樹を見上げ首を傾げる。
『そう?大きさの変わらないあたしには同じね。貴方がそれだけ大きくなったからそう感じるだけよ。貴方が成長したの。』
同じ此の町の出身である黒猫がそう鳴いた。
此の町を出てから、気が付けば10年以上が経っていた。
「…そう…、そうでしたね。」
(…成長か…。心は、こんなにも「あの日」のままなのに…)
いつの日か此処に戻れば、あの日に戻れる様な気がしていた。
あの日の結末とは違う、幸せな続きを、やり直せる様な気がしていた。
青年は、其れを夢みていた。
(…こんな形で、こんな気持ちで、来るはずではなかったのに…。)
青年は表情を曇らせる。