追憶 ―箱庭の境界―
未だ…
僕は行動を慎んでいた。
彼女の心の支えとなりながら、周りの信頼を集めながら、様子を伺っていた。
僕は柔らかく彼女を見つめ、彼女の自室から見える中庭に視線を移した。
「…そろそろ…アンも帰って来る時間なんですがね…」
「そうね、今日は遅いわね?」
アンはこのところ僕と離れ、城を外出する時間が増えていた。
自由気ままなアンにとって、城での限られた生活は窮屈なのかもしれない。
朝に出掛け、夕方の謁見の時間には必ず僕の側に居た。
僕のお供だという事は、城の従事には知れている。
堂々と城の正門から出入りすれば良いものを、彼女は其れを嫌い、彼女にしか出来ない城壁の隙間から出入りしていた。
其れが、
リフィル様専用の中庭だった。
此の時間に、
僕と此の部屋で落ち合う。
謁見の時間には、今後の国にとって重要な事項が転がり込んで来る場合がある。
自尊心の高い彼女は、自分も状況を把握したいからと、時間に遅れた試しは無い。
「…何かあったのでしょうか…。少し中庭を見て参ります…」
「…あ、私も行くわ。」
僕は不安に刈られ、
緑溢れる中庭へと足を進めた。