追憶 ―箱庭の境界―
リフィル様専用の中庭は、
とても静かで穏やかだった。
『…マルク…。貴方、いつまで経っても子供ね…?そんなに…泣かないで…?』
僕はアンの琥珀色の瞳をじっと見つめ、ただ涙を流すしか出来なかった。
『…そんなに泣かないで?ふふ…弱虫ねぇ…?』
「…どうして!アンがこんな目にあうんですか!?何があったんですか!何処へ…行っていたんですか…」
アンの行動を、僕だけは把握しておくべきだった。
そう今になって後悔をしても、彼女の命を引き延ばす事は叶わないのに。
アンは、もう動けない。
其れでも、
琥珀色の瞳だけは、しっかりと僕の顔を見つめていた。
『…だから…猫って嫌ね…?貴方が泣いていても、抱き締めてあげる事が…出来ないの…』
自分が猫である事を嫌う、
自尊心の高い、
僕の黒猫「アン」。
『…あたしは猫だから…。貴方より先に逝くのよ…。だから、もう…こうならなくても、寿命だったの…』
「…嘘でしょう?アンは未だ!」
『…あら、猫の寿命は15年位なのよ…?貴方と出逢って、もう何年?…あたし長く生きた方よ…』
最近では老いた姿を気にしてか、人の姿になる事をしなかったアン。