追憶 ―箱庭の境界―
『…貴方は…弱虫だから…、遺して逝くのが心配だった…』
「……じゃあ!未だ!…未だ!逝かないで下さい!」
『…あたし、町外れに行ってたの。貴方が記憶を消した…元の家族に会いに…』
「――…!?」
町外れの人間にウィッチは少なく、動物の言葉が通じる事は無い。
『…宿屋のおばさん、何も知らずに…結構あたしを可愛がってくれたわよ…?』
「…どうして?」
今更どうしてそんな事をアンがする必要があったのか、僕は理解に苦しんだ。
『…機会を見て…あたしを通じて、貴方と引き合わす予定だったのに。…あたし、貴方には甘えられる家族が必要だと思ったの…。あたしが居なくなる前に…。あたしが逝く前に…』
「…僕はっ…」
『…でも失敗しちゃったわ…。町外れで、あたしを知っている昔馴染みに会っちゃった…』
「…その怪我は!そいつが!?」
『…貴方に出逢う前の、元のご主人様…』
「―――!?」
アンは此の町の出身で、僕と出逢った時に「前の主人をなくした」と言っていた。
「無くした」を、
僕が「亡くした」と解釈していたに過ぎなかった。