追憶 ―箱庭の境界―
『…でも…いいの。あたしが悪いんだから。それより…あたしが心配なのは、貴方の事なのよ…』
気難しい、気紛れな、
自由気ままな僕のアン。
琥珀色の瞳には、
溢れんばかりの涙が溜まる。
『あたしの名を呼んで?』
「…アン…。アン…!」
貴女の琥珀色の瞳が印象的で、
とても魅力的で付けた名前。
『もう1つの…名前…』
「……アンネ?」
『…ふふ。どうして、そう呼ばれたかったか…分かる?』
アンは人の姿になった時に、
決まってそう呼ばれたがった。
「猫みたいな安易な名前で呼ばないで!」と怒っていた。
『…ご主人様に習って…何処かの文献で読んだのよ?「アンネ」の意味…』
「…アンネの意味…?」
『…何処かの国の言葉でね、「母親」って意味なんですって…』
「……アンネ…」
『…弱虫なマルク。貴女の母親に…なりたかったの…。ただの…ちっぽけな猫が、笑っちゃうわよね…?』
「…いいえ…いいえ!笑わない!貴女は僕の大切な家族ですから!僕の…!たった1人の…」
『母親』でした。
「――!?…アン…ネ?嫌だ…嫌だ!死なないで!僕を独りにしないで!アンネ!!アンネ!!」