追憶 ―箱庭の境界―


アンネが、死んだ。

僕のアンネが。

僕の黒猫が。
僕の「母親」が。


僕は人知れず、
中庭で大声で泣き叫んでいた。

こんなにも涙を流した事は、
最初で最後の事だと思う。


僕は、もう独り。
アンネが居ないから。


此の町を出た時の、
彼女と出逢う前の、

僕に戻っていた。

表情は笑っていても、
瞳が笑っていない。

柔らかな言葉を口にしても、
一層に心は凍り付いたまま。



アンネの最期の足取りを辿り、僕は町外れに足を運んだ。

10年以上経ってから足を踏み入れた町外れは、どこか懐かしく、苦い思い出が昨日の事の様に蘇る。

更には、アンネの事があり、
彼女の最期を僕自身で確認出来さえすれば、もう一生此処へ来る事は無いだろう。


アンネの「元の主人」は、僕の予想と反して直ぐに見付かった。

弱き者に対しての余りにも残虐な仕打ちに、関係の無い人々の中でも話題にあがっていた。


「あぁ!?何だよ、兄ちゃん…」

懐かしき寂れた宿屋の、一層に寂れた酒場で、「彼」は狂った様に昼間から酒を飲んでいた。

乱れた髪は、金色。
くすみ荒んだ瞳は、緑色。

町外れの人間と見た目は何も変わらなかった。

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