追憶 ―箱庭の境界―
「…滅多なことを言うものではありませんよ、リフィル様。あれから数年。何故、事が大きくなる前に勘付いた邪魔な者を内々に始末出来るのか。この城にいる限り、全ての会話をマルクは聞いているのですから…」
リザは声のトーンを下げ、半ば早口言葉の様にリフィル様にそう言った。
「…ふふふふ、…そうですよ?」
其れを、私は別にある私自身の部屋で書物を開きながら耳にしていた。
城内での噂話、不平、不満。
其れを上手く利用しながら、人々の上に立ち、操作する。
アンネに器用な大人に育てられた私にとって、其れは容易い事だった。
「…リザ、ご免なさい。貴女や貴女の家族までも巻き込んでしまって…」
「リフィル様が謝る必要はありません。私が此処で大人しく従事していれば、家族も安全なはず…。それに何よりずっとお仕えしてきた貴女を、独りにさせられる訳がありません。」
そのリザの言葉は、
私の想像以上であり、満足な答えだった。
「…流石、リザですね。彼女を選んだ甲斐がありましたね…」
私の自室での独り言は、亡きアンネに向けて話している様なものだった。
5年が経っても未だ、
傍らから猫の鳴き声がする。