追憶 ―箱庭の境界―
「ほら、見て?消えかけていた鬼さんの体が、元に戻ったの。あの妖精のお婆さんが言っていた通りよ?」
鬼の体には、期限が在った。
其れを過ぎれば、
「体」と「心」は別々の個体として朽ち果てる。
そう成らない為の術は、
定めの一部として知っていた。
しかし我は蓋をしていた。
次なる鬼を、
此の手で捕まえるか。
赤い実の中身を知った上で、
其れをもぎ採り、
自分の体の中へと戻すか。
しかし我は、
どちらも選びはしなかった。
定めに従う振りをして、
次なる鬼を捕まえる事を此の手は拒んだ。
赤い実を、
採ろうとはしなかった。
只、風に吹かれては揺れる赤い実を、懐かしく目を細め見つめる日々が続いた。
我の実が熟し、
地面に落ちて朽ちる日を待っていた。
我の細やかな平穏が、
ふいに現れた少女の手によって、変わってしまった。
「これで鬼さんは自由でしょ?もう定めに囚われなくて良いのよね?この箱庭から放たれて、それで…」
『……其レデ…?』
「箱庭の境界を越えて、その向こうに在る花畑を越えて…、もう過去に囚われずに、新しい次の世界に行けるの!!」
もう…
境界が無い…?