追憶 ―箱庭の境界―


冷やかに、柔らかく。
私が笑う度に兵士たちの心音が速まる様子が、愉快だった。


1人の兵士が武器を取る。
「殺される位なら」と、正当防衛だ、と兵士たち全員の剣が私に向いた。

彼らは信じていた。
私は、女王の命令を高い所から下すだけの、非力な只の従事者だと。
例えウィッチだとしても、只の白い魔力の術者。
全員で掛かれば勝てると。


「あぁ…馬鹿な人たちですね。そうですね…、街民の生き残りに不意をつかれ、体勢を立て直し応戦するも虚しく全滅…。そういう事にしましょうか…」

私の手を、
煩わせないで貰いたい。
これ以上、血に染めさせないで貰いたい。


「馬鹿な事をしている」と、
私に気付かせないで貰いたい。


兵士たちの雄叫びが鎮まった、私だけが地に立つ赤く染まる砂漠の真ん中で、

掌には少しばかりの返り血。


「…何故、私が直接手を下さないのか。…解りませんか?…あぁ…もう答えられる人が誰も居ませんねぇ?」

掌についた血を、
私はそれは丹念に拭った。


「…これ以上、汚れた手では…、リフィル様に触れられないじゃないですか…」


紅色の魔力を持つ捕虜を連れ、私は瞬間移動をし、サザエルに帰国した。


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