追憶 ―箱庭の境界―
私は前にも後にも身動きが取れず、独り暗い闇の中に居る様な日々が続いていた。
ある日、一筋の光が差した。
城のリフィル様の中庭に、黒い仔猫が迷い込んだ。
それを見つけたリフィル様は、それは嬉しそうに自室に連れ帰り、私の目を盗む様に穏やかな時間を過ごしていた。
「黒猫」を確認して、
私はアンネを想った。
アンネが私に助言をしに来たのだと、目を細めて喜んだ。
その黒猫は、
「タビ」という名だった。
「迷い込んだ」と装った、
リオン様の偵察の猫である事に、私は気付いていた。
「もう、こんな時間…。タビちゃんお家の方が心配されているわ…。」
『アタシ大丈夫よ?ご主人様は旅行中にゃにょよ。泊めてくだしゃると嬉しいにょだけりぇど…』
リフィル様は返答に困っている様で、煮え切らない言葉を掛けていた。
「嬉しいのよ、お友達は何十年もいなかったから…。でもね?危ないの。もうすぐ…」
「もうすぐ、私が来るから、ですか…?」
「――マルク!」
リフィル様はそう呟くと、黒い仔猫を守る様に胸の中にしっかりと抱いた。
私から遠ざける様に。
私はリフィル様のその様子を見て、目を細めて笑った。