追憶 ―箱庭の境界―
仔猫はカルラ様の手から離れ、私へ向かって歩き出した。
「そうね。残念だけどお外の世界に帰りなさいね。」
魔力を持たないカルラ様には、仔猫の声は伝わらない。
仔猫の様子を見て、そう察したに過ぎなかった。
ニャァ…
『あなたともお友達になりぇしょうだけど、ごめんなしゃい。』
私は再び仔猫の首根っこを捕まえる。
主人の元に返す為に。
「…きっと、また…たくさんのお友達を連れて遊びに来てくれますから…。」
ふっ…と小さく笑った。
仔猫にしか伝わらない小さな声で、私はそう呟いていた。
『アタシお友達少にゃいし、来にゃいわよ!?』
仔猫は私の手元でそう暴れた。
いいえ、
「お友達」を…、
沢山連れて来て下さい。
再び目覚めた黒い仔猫は、私の自室の机の上で警戒していた。
私は本棚の前に立ち、本のページを開きながら言った。
「本来なら、侵入者を黙って帰すなんて馬鹿げた事をしないのですが…」
これは、準備。
仔猫は暗闇に差した一筋の光。
これは、
アンネが与えてくれた、
私の最期の仕事。