追憶 ―箱庭の境界―


我は大きく大きく首を振る。


「……鬼さん…」

『……許サレテ…シマウ!!』

歯を食い縛り、瞳をぎゅっと閉じ、醜い姿で大粒の涙を流していた。


『――行ッテハイケナイ!許サレテハイケナイ!!』


其れが、我の「心」。

感情を何も知らずに、此の地に留まる事が幸せかもしれないと少女は言っていた。
全くの、其の通りだった。


「…ふふ…。弱虫で、泣き虫の鬼さんは…、本当に子供みたいに泣くのね…?」

少女は、
柔らかく笑っていた。


「…ねぇ、見て。境界の向こう。向こう岸に何が見える…?」

『……?』

少女に問われるままに、
我は涙の滲む瞳で懸命に向こうを見た。

向こう岸には、
見覚えの在る「黒猫」が居た。


『……アン…ネ…?』

我は、
其の名を知っていた。

しかし、すぐに首を振る。


『…違ウ、居ルハズ無イ…。居ルハズ無イ!!』

――待っている筈がない。

此れは、幻覚。
「心」が見せているだけの妄想に過ぎない。

罪に罪を重ねた我に、
待っていてくれる者は居ない!


『――違ウ!!』

例え現実だとしても、

――合わせる顔が無い!!


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