追憶 ―箱庭の境界―
にゃぁぁ…
猫の、鳴き声がした。
瞳を開けると、
布団から出ていた私の顔に、黒猫が擦り寄っていた。
一回り済ませると、私の目の前に座り込み、もう一度鳴いた。
「……今度は…アンネですか…」
布団から右手を出すと、眠い目を擦り、アンネの首元に優しく触れた。
にゃあぁ…!
にゃぁ…
どうも機嫌が悪い黒猫は、何かを私に訴える様にして鳴き続けていた。
「……どうしたんですか…アンネ…。いつもなら一緒に寝てくれるでしょう…?」
仕方なく布団から起き上がると、黒猫は寝かさないと言わんばかりに、私の膝元に前足を掛けた。
ぼうっと黒猫を抱き止め瞳を上げると、陽を遮った暗い寝室に射し込むのは居間からの柔らかい光。
少し開いた戸の隙間から、
様子を伺う様に覗き込む愛娘。
「ぱぱ、おきた!まま、あんね!あんね、わるいこ!」
瑠璃はすぐ後ろに居るであろう妻を振り返り、幼い声でそう報告した。
「…え?アンネ?…――あ!!」
妻は何かに気付いた様だった。
慌てた声が聞こえた。
「…おやおや…」
にゃあぁ!
琥珀色の瞳を見つめると、鳴き声が返る。
黒猫の機嫌が悪い原因は、妻にあった様だ。