追憶 ―箱庭の境界―
「…ねぇ、もう一度寝ていいわよ?…今度は大丈夫よ。ねぇ?瑠璃?」
妻は後ろから瑠璃を抱き止め、私にそう意気込んで見せた。
「…えぇー?ぱぱ、おきないの?まま、おはなみ!」
「後でね」
…お花見?
首を傾げる私に、妻は言う。
「実はお弁当作っちゃったの。あなたが起きてから午後に行こうって、瑠璃と楽しみにしてて…。お花見って言っても、すぐそこよ?」
「……そこ?」
妻は窓の外を指差した。
自宅マンションのすぐ横に位置する、多目的の広々とした芝生の公園。
よく瑠璃と妻が通う場所。
其処に、
1本の桜の木が在る。
「…花見には良い時期ですね…」
風に吹かれて、
花の匂いに包まれて、
桃色の花びらに囲まれて。
私たち、3人で…
「…ふふ、行きましょうか…?」