追憶 ―箱庭の境界―
少女は、未だ其処に居た。
何一つ変わらぬ後ろ姿で風に吹かれ、例の樹の下に居た。
我は体を風に吹かれながら、下から樹を見上げる少女に声を掛けた。
ただ、淡々と。
『…此処デ、何ヲシテイル…』
「それは昨日も聞いたわよ、鬼さん。代わり映えしないわね…?」
少女はやはり我を振り返りもせず、そう言葉だけを返した。
「それを聞いたところで、私の返答も変わらないわ。つまらないわね?」
『………』
「私、他にやる事ないみたい。暇なのよ?少しお話しして行って?…あぁ、お話しと言っても鬼さんは質問にしか答えてくれないものね。じゃあ、私がまた質問するわ?」
少女の言葉に、感情がないはずの我が首を傾げた。
それは、まるで先程まで見ていた情景の中の少年が、未だ我の元に居るかの様に。
「さっき違う鬼さんを見かけたの。貴方と同じ目をしてた。皆、鬼さんは同じ。皆、本当に感情がないみたいね?」
『…其レガ鬼ノ定メ…』
少女は眉間にしわを寄せ、我を睨む様に首を傾げる。
「解らないんだけど…『定め』って何なの?」
『…世界ニ決メラレタ運命…』
「……じゃあ、私がここにいる事も定めなのかしら?」