追憶 ―箱庭の境界―
『………』
質問には答えられなかった。
ふいに現れた少女の事を、我が知るはずもない。
「…鬼さんたち以外に…、この場所に私みたいな人間が来る事はないの?」
質問の答えを我に求める事を諦めた様に、少女は溜め息をついてそう聞いた。
『…此処ヲ通ル事ハ在ル…』
「いつ?」
『…時ハ決メラレテイナイ…』
「むぅ…。この草原が通り道って事は…。ここを通って、どこへ行くの?」
我は指し示す。
赤褐色の指には、鋭い長い爪。
其の指は我らの魂が揺れる大きな樹の、其のまた先の草原を示した。
風に揺らめく草原の、さわさわという音だけが此の場に響く。
「…分かりにくいわよ、鬼さん…。向こうに一体何が在るの?」
『…夜ニ訪レル街…』
「――街!?街が在るのね!?じゃあ人も居るわね!もっと早く言ってくれれば良かったのに!」
『………』
少女は突然瞳を輝かせた後、我の目の前で頬を膨らませてみせた。
「それで?街は、どの辺りにあるの?」
我は草原を示した指先を少し空へと押し上げた。
其れは、草原と青空の境界。
ごつごつとそびえる山肌が遠く小さく見える。