追憶 ―箱庭の境界―
『…アノ山ノ麓…』
我がそう答えると少女は眉間にしわを寄せ、えらく遠いわね、と愚痴を溢す。
「…どうせ乗り物なんて無いでしょうね。あそこまで歩くしかないのかしら…」
周囲の草原を左右上下に隈無く見渡し、少女は自分の足元を見ていた。
其の山は小さく、遠く。
しかし、それは真では無い。
此の地は空間が歪んでいるという事を少女は知らなかった。
――ザァッ…!
我の後ろ手から強風が吹き荒れ、周辺の草は横に倒され、その風は少女へと向かう。
「…ぅわっ…!」
我と向き合っていた少女がその小さな体を傾かせながら腕を上げて抵抗を見せる。
風が、騒いでいた。
――ザァァ…!!
我が左右に目を配らせている間に、少女は風圧に耐えられず、その場に尻餅をついていた。
「…ちょっと!」と声をあげる少女に構わず、我は耳を澄ませ空を仰ぎ見る。
「――ちょっと!?小さなレディが倒れてるのに、鬼さんは手も貸せないの!?」
『…………』
「ちょっと!質問してるんだから答えてよ!」
『…定メニヨリ、人ニ手ヲ貸ス事ハ禁ジラレテイル…』
少女は我にはない感情的な言葉で叫ぶが、我は空を見上げ続けていた。