追憶 ―箱庭の境界―
何一つ変わらぬ青い空。
濃淡も見当たらぬ、一色の青。
其の青さに紛れ。
「…?ちょっと鬼さん、上ばかり見上げてどうしたの?空に何か居るの?」
少女は草に腰をつけたまま地面から我を見上げ、呆れた声でそう聞いた。
我の鋭い瞳は、
遥か遠くまでを映す。
我の薄汚れた耳は、
遥か遠くの音までも拾う。
『…風ノ道、風デナイ者ガ通ッテイル…』
「…は?」
――ザァァ…!!
草原を揺らす風が我に告げる。
定めに従い、
其の者を迎えに行くのは我の役目だと。
定めに従え、と。
…バサッバサッ…
我は背に在る黒い翼を二度動かし、空へ羽ばたこうと地を踏みしめた。
其の我の行動を少女が止めた。
不慣れな、生暖かい温度が我の足元にあった。
其れは、我の大きな足の指先を掴む、少女の小さな手の温もりであった。
「…どこへ行くの?風の道を通っている人を追い掛けるの?」
『…風ガ告ゲタ定メ故…』
「その人は街へ行くんでしょう?街へ行くのなら、私も連れていって!」
『………』
我は返答が出来ず、少女を見ていた。
我が成すは、定めに従うのみ。
此のような試しは無い。