追憶 ―箱庭の境界―
表情ひとつ変えず掴まれた足先を見つめる我に、少女は不満を漏らす。
「…何よ、ケチね。その大きな翼なら、私と一緒だって飛べるでしょう?その大きな体なら、私一人くらい抱えられるでしょう?いいじゃない!」
『…人ニ手ヲ貸ス事ハ…』
「禁じられている!でしょう?」
それは聞いたわ、と少女は口元を尖らせると、
「じゃあ、こうしましょう?鬼さんは街へ行く人を追い掛けるだけよ。手を貸さないでいいわ!ただ、歩いて!飛ばないで!」
そう強く我に言った。
我は定めに従うのみ。
他者に従う必要はない。
ふいに現れた少女の言葉に従う必要はない。
「私が勝手に後ろをついていくだけだから!手を貸す事にはならないでしょう?」
『………』
「……何よ、不安なのよ!初めての土地だし!」
従う必要はない。
しかし、少女の強い眼差しを目にした我は、飛び立つ事が出来なかった。
「さぁ!追い掛けるんでしょう?飛ばないで、歩いて!で、その人を追い掛けて、どうするの?その人、何なの?」
少女は立ち上がると、我より先に草原を歩き始めた。
『…迎エニ行ク…。行キ先ヲ無クシタ者ヲ、「力」ノ尽キル者ヲ…』
そう。
其れが、我の定め。