追憶 ―箱庭の境界―
4・『 芽吹く緑 』
4・『 芽吹く緑 』
少女の姿は、もう無かった。
我は少女の言う通りにした。
翼では飛び立たず、此の足でプエル鉱山の麓を目指した。
其の麓に街が訪れるのは、夜。
我ら鬼は、其の名も無き街に入る事は禁じられている。
本来であれば夜が訪れる前に、其の者が街へと入る前に追い付かねばならなかった。
翼を使えば、其れは叶った。
しかし我は律儀に少女との約束を守ったのだ。
それでも…
我の無駄に大きな体。
其の歩幅について来れるはずもなく、少女の姿は見えず、遥か遠く後方。
シュンッ…と夜が駆け付け、晴れ晴れとした青空は暗闇に包まれる。
普段の寝床に戻る事もなく、我は背の高い岩陰に寄り添う様に腰を下ろした。
今夜は此の場で情景を見る。
無くしたはずの感情と共に…
また、
我は一人の少年と共に在った。