追憶 ―箱庭の境界―


桃色の花びらは、
もう其の情景には無かった。


「…そうよ、いいかしら?自分の『血』の流れを感じて…?」

代わりに、真新しい緑色の葉が例の樹に溢れていた。
其の樹の下で、
例の少女が少年に真剣な眼差しを送っていた。


「…そろそろ良いんじゃないかしら?自分の頭の中に描いたイメージを体から出してあげるの…」

「…はい…」

少女の言う言葉に少年は頷き、自分の手の先を見つめた。

其所には茶色く濁った液体が入った容器が在り、少年は其の液体を魔術を使って黄色に変化させようとしていた。


2種類の薬草を煎じた液体に自分の魔術を融合させる事で新たなる薬品を生み出す。

少女が何処かで習ってきた初歩的な魔術を、少年が試している様であった。

しかし…

「…ぁ、あれ…?」

幾ら手をかざしても、液体は容器の中で多少の動きを見せるだけで茶色く濁ったまま。


「…駄目ね。」

其の教えは、すでに二回も失敗に終わっていた。

しゅんと肩を落とす少年の目の前で少女がクスクスと笑っていた。


「…なんでかしら。私と逆ね?」

「…逆?」

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