追憶 ―箱庭の境界―


「…よく分からないわ。色なんて、どうでもいいじゃない。」

「ふふ、そうですね?」


少女は自分の身元を明かそうとはしなかったが、『色付き』の血である事が身分の高さを表していた。


(…羨ましい話ですよ…)

少年は声も少なく笑みを浮かべ、周囲に飛び散った容器を穏やかに回収していた。



其の昔、此の世界の人間にはウィッチが多かった。
血の色は子に遺伝するが、ウィッチ以外の者と結ばれれば、其の血は薄まる。

長年の時を経て、ウィッチの子孫の血は薄まり、力の持たない人間が増えていった。
それでも魔術の栄えた此の国では、近隣の国と比べればウィッチ人口は多い。


少年の様に力は持ってはいるものの、血…いわば魔術の力が薄れた『白』の血を持つ者が此の国、いや世界には多かった。

其の世界の中で『色付き』である少女の親は、青色と黄色の力を持つ。

いわば、サラブレッド。


少年は親の顔すら知らない。
少女は、少年の望む全てを苦労なく持っている。

幼いながらに少年は其の現実を理解していたが、初めて出来た同年代の友人には違いない。
あえて其の関係を崩す言動を控えていた。


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