追憶 ―箱庭の境界―
「…人?お婆さん?」
あどけない少女の問いに、老婆の声は少し間をあけた。
「…人…ではないねぇ。私は妖精。暗がりでよくは見えないが、それを問うという事はお前は人間なんだろうね?幼子。」
「…うん。お婆さん、妖精なの?私、山の麓にあるってゆう街を目指してるのよ?」
「…あぁ、そうかい。夜に訪れる妖精の街。私はそれの住民さ。そんな暗がりに居ないで、おいで。案内しようか。」
「本当?良かった!」
老婆には、暗闇に紛れた我の姿は見えてはいない。
加えて、巨体とはいえ少なからず少女の陰になり、輪郭さえとらえられてはいない。
しかし…、
「良かったわね!そんな所に座っていないで、鬼さんも一緒に行きましょ!?」
少女は我に振り返ると、再び小さき手を差し出した。
「……な、何!?何だって!?」
老婆の声色が変わる。
其れは長きに渡り、
唯一、
我にぶつけられる感情。
「……ぇ?」
「幼子!そこに、まさか…鬼が居るのかい!?」
「…うん?居るよ?」
我への、恐怖。
「幼子!何をしてる!?」
「何って?鬼さんが動かないから、手を貸そうと…」