追憶 ―箱庭の境界―
しかし、老婆は知っている。
我の存在する意味を。
「鬼の手」の意味を。
「早く!恐ろしい!忌まわしい存在から逃げるんだよ!!」
「…恐ろしくなんてないわ!?そんな事を言ったら、…可哀想よ…」
我は鬼。
人からぶつけられるのは恐怖と嫌悪。
哀しくは、ない。
「可哀想!?確かに…そんな事を感じる情すら無いのだから哀れではあるけどね!道連れにされたいのかい!?行くよ!!」
「…どうゆう…」
「理由なら後だよ!いいから!」
少女は何度も我を振り返るようにして、次第に暗闇に飲まれていった。
我は、鬼。
岩陰に残された、一体の鬼。
感情を奪われ、中身はない。
昼は掟に囚われ、
夜に体を囚われ…
我は暗闇を見つめたまま。
そして、また…
あの情景に囚われていく。