追憶 ―箱庭の境界―
1・魂が揺れる樹の下
1・魂が揺れる樹の下
あの樹の下に、少女が居た。
我らが暮らすは窪んだ大地。
それを囲むは、淡い緑色。
風になびく草原。
草原は何一つ変わらず其処に在り、その樹もまた同様だった。
我の目に映るは、
草原にぽつりと立つ樹と、少女の後ろ姿。
ただ、其れの存在だけが見慣れぬ光景であった。
我は体を風に吹かれながら、下から樹を見上げる少女に声を掛けた。
ただ、淡々と。
『…此処デ、何ヲシテイル…』
我の声は、地響きの様な唸り。
少女はびくりと肩を震わせ、首だけを動かすと我を目にした。
「…あぁ…ビックリした。貴方は何をしているの?」
その反応は我の風貌に脅えている様子でもなく、そうとだけ話すと再び樹に視線を戻す。
『…定メニ従ッテイル…』
「ふぅん?」
『…此処デ何ヲシテイル…』
「分からないわ?目が覚めると崖に立っていた。声がして言われるままに七色に光る通路を下りたら…ここに居たのよ。」
少女もまた淡々と、樹を見上げたまま我の質問に答えた。
青い空の下、
風に吹かれては、草と共に少女の髪もなびく。