追憶 ―箱庭の境界―


「じゃあ、私は逃げるから…いつも通り次の鐘が鳴ったら『鬼さん』は追いかけてね!」

「はいはい…」

少女は砂避けの白いローブをひるがえし、少年の受け答えに少し不満顔のまま街の方へと駆け出した。

決して走り慣れてはいない色白の細い足が、あまり速いとは言えない速度で進んでいく。


(…次の鐘では、すぐに追い付いてしまいますねぇ…)

魔術学園の例の樹を見上げながら、少年は次の鐘を待つ。

学園の生徒たちの予鈴と本鈴。
少年がすぐに追い付いてしまう為、其の限られた合間が少女が自由に逃げていられる時間なのだ。



――キンコーン…

何処からともなく、
辺りを鐘の音が鳴り響く。

其れほど大きな嫌な音でも無いのに、此の鐘の音は少年の暮らす離れた町外れにまでも鳴り響くのだ。


(…もう少しだけ…有余をあげましょうかね…。すぐに追い付いてしまうのだから…)

少年は例の樹を見上げ、
木漏れ日の下、次の風が吹いて木々がざわめいたら追い掛けようと決める。


(…『鬼ごっこ』か…。本来は2人でするものじゃあないでしょう?あのお嬢さんは、よく毎日飽きもせず…)


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