追憶 ―箱庭の境界―
少年は決して「鬼ごっこ」が嫌いなわけではないが、体力が無い少女が毎日の様に繰り返す事に首を捻っていたのだ。
しかし少女が楽しそうに、喜んだり悔しがったりする様が嬉しくて、少年にとってもかけがえのない時間になっていた。
――ザワ…、ザァ…!
其の木々が揺れる優しい音を合図に、少年もまた、年相応の笑顔で足を踏み出した。
(…さて、行きますか!)
すでに少女の姿が見えないとはいえ、少女が走っていったであろう道程は予想がついていた。
あまり外出をしない少女は街中に詳しくはない。
学園から伸びる、長い街路樹の並ぶ大通りを、ひたすらに街の出口に向け走っているに違いない。
今日は人も多い方ではない。
しかし行き交う人の多くが、少女や自分と同じ白いローブを着ている。
(…さぁ、小さなローブのお嬢さんは…?)
一本脇へ入れば商店が並び賑わいを見せるが、見通しの良い大通りでは馬を連れた旅行者など大人たちばかりだ。
少年は、すぐに小さな後ろ姿を発見する事になる。
「…もう後ろまで来ていますよー?しっかり逃げてください?」
少し挑発的に、少年は少女の後ろ姿に声をあげた。