追憶 ―箱庭の境界―


少女は少し速度を落としながら、顔だけを此方に向ける。
少年の顔を確認すると悔しそうに、何処か嬉しそうに、息を漏らしながら応対するのだった。


「…相変わらず…足が速いのね!でも簡単には…捕まらないんだから!」

(…捕まえちゃいますよ?)

少女の強がりに、少年が走りながら笑みを溢す。


「…どうして、…鬼ごっこが好きなんですかぁ?」

今日に限って、
どうして、
そんな質問をしたのか。


「…どうしてって!はぁ…!…楽しいじゃない!」

「…2人なのに?」


「――2人だからよ!」

其れは少年にとって、
これ以上無い満足のいく嬉しい答え。


「…じゃあ!追い掛けるのと、逃げるの、…どちらが好きです?」

「…に、逃げるの!」


「…ふふ、足が遅いのに?」

「――…失礼ね!」

少女の返答に少年は足を弛めながら、笑い声が漏れてしまわぬ様に耐えていた。


「…はぁ…、逃げるのは好きよ!普段、逃げ出せないからかしら!…はぁ!家から!父様から!…私は、『自由を求めて』逃げてるのね!」

「………。」

其れは、
きっと冗談ではなくて。

少年は何も返せなくなってしまった。


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