追憶 ―箱庭の境界―


「…だから。」

「……?」

「…今日こそは、逃げ切るの!私は、捕まらないわよ!?」

少女はそう言って、にやりと顔を少年へ向けると、普段の少女なら行かない右の脇道へと入っていった。


「……え!?」

反応が遅れた少年は、慌てて方向転換し後を追い掛ける。


「…ちょっ!普段は行かない、貴女の知らない道でしょう!?迷いますよ!?」

少年の慌てた声にも構わず、少女は鬼から逃げる一心で走り続けた。


もう街の出口近くの其の細い脇道は、少年にとっては馴染みのある通い慣れた道。

町外れの宿屋へと続く、

富も名誉も、
何もない、

貴族の少女に似合わぬ砂利道。



「――だ、駄目ですよ!貴女が進む道じゃない!!」

「…私が決めるのよ!自由でしょ?だったら捕まえてみなさいよ!」

此の道の先に何があるのか、少女は知らないのだ。
良い人間ばかりではない、安全が保証されない貧困の土地。


少年が恐れている事は2つあった。


1つは、
少女が危険なめに合いやしないか。

少女が貴族だと張れてしまえば、誘拐やら身代金やら、そんな悪い事を考える連中が町外れには腐るほど居る。


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