追憶 ―箱庭の境界―
2つ目は、
互いの関係が変わってしまう事。
2人は互いの身元を詳しく話してはいない。
少女は貴族だろう、と少年は勝手に思っている。
では、少女は少年の身元をどう想像しているだろうか。
薄汚れた身なりを見て、
ろくな教育を受けさせて貰えない少年を知って、ある程度は想像がついているだろう。
しかし、
想像で終わるのと、実際に行って見るのでは、あまりに違い過ぎる。
(…行っちゃ駄目だ…!)
貴族の少女と過ごす穏やかな時間は、自分すら偽れた。
自分を変に卑下する事も忘れ、自分が何者なのかさえ忘れられる時間だった。
少女が其の道を進む事によって、自分たちの関係が変わってしまう様な気がしていた。
視界は徐々に寂れた風景へと変わり、早く少女を捕まえてしまおうと、少年は速度を上げた。
(…しめた!兵士がいる!)
寂れた砂利道の右側に、監視の為に設置されている保安所。
其れは王家に仕えるウィッチ兵の詰所でもある。
兵は表に2名も立っている。
(…止めるはずだ!)
町外れには似合わない少女が通るとなれば、仕事上止めないはずがない。
しかし…、
少女は顔を隠すようにローブを深くかぶり直し、さらに速度を上げた。