追憶 ―箱庭の境界―
我は、青年を知らない。
我の瞳に映るのは、
定めに従うべき『行き先を無くした者』である。
『…ソロソロ時ガ満チテイル。掟ニ従ウガイイ…』
「…ははは。掟に縛られた頑固者め。どうせお前はここを越えられない。俺たちは先へ進むよ?」
青年は我を受け入れなかった。
捕まえようにも我は境界を越えてはならない。
『…我ハ此処デ待トウ。掟ニハ誰モ背ケナイ…。ジキニ時ハ来ル…』
背けない。
掟には、背けない。
「…ちっ。はいはーい。勝手にしたら~?ばいばーい?」
青年は我に背を向けて、片手を投げやりに振っていた。
我は表情も変えず、じっと青年の背中を見ていた。
「…掟に囚われた哀れな者。鬼さん達には『感情』がないから、何を言っても怒りゃしないよ?」
青年は怯える女たちに近付くと、草原を指差し『早く行こう』と催促しながらそう言った。
『感情』は無い。
『怒り』はしない。
――『哀れ』
丘を登り始める青年たちの姿が小さくなる。
我は其れをずっと見ていた。
丘の向こうに何が在るのか、
青年たちが何処へ向かうのか、
我は知らない。