追憶 ―箱庭の境界―
――バサッバサッ…
静寂に包まれた河の上。
我の翼の音だけが、風に吹かれ其の場に響く。
我の体に、中身は無い。
中身は、
あの樹に揺れる『赤い実』。
情景の中の少年に、
我の体の一部を奪われた様に、
我の中で、
何かが生まれては消える。
此の手は、
鬼の手は、
何の為に存在するのか…
『…僕、鬼のままですね…』
『…彼女が自由を求め続けるのなら、せめて、僕は「鬼」のまま…。いつまでも、彼女を追い続ける「鬼」のまま…』
『…力を、手にいれてやる…』
――バサッバサッ…
境界に近付く翼の先が、
ジリジリと熱を持つ。
焦げ付いた匂い。
遠くの草原で、
『赤い実』が揺れている…
風が吹く。
黄緑色の丘の向こうから花の香りを連れて、
其の風は、我に吹く。
『…おいおい、熟れすぎだろ。お前さんの「赤い実」は…』
そう吹く風に、
我の大きな体がゆっくりと境界から押し戻されていった。
『…お前さん、…いや、鬼よ。ここで何をしてる?』
風は我にそう聞く。
其れは、我が見慣れぬ少女に掛けた言葉。