追憶 ―箱庭の境界―
『…我ハ鬼。名ハ必要無イ…』
少女は顔を曇らせ「つまらないわね」と呟くが、次の瞬間には自慢気に自分の名を語るのだった。
「私の名前は、瑠璃。瑠璃色のルリよ。綺麗でしょう?」
『………』
「……何か言ってくれる?可愛い名前だね、とか。珍しいね、とか…。そこまで無反応だと困っちゃうわ?」
少女はムッと顔を歪め、我の言葉を未だに待っていた。
『…其レハ真ノ名カ…』
「…真の名?そうよ?瑠璃ってお父さんとお母さんが付けてくれたんだから。」
『…ナラバ其レハ、其ノ世界ノ名。オ前ノ真ノ名ハ…?』
我はそう聞いた。
聞いたからどうという訳でもなく、例え答えられようと何を返すわけでもない。
少女は眉間にしわを寄せ、我を睨み上げていた。
「…だから、瑠璃よ。鬼さん、貴方が何を言っているのか、私よく分からないわ。」
『…………』
「…何よ、怒ったの?」
我の表情が変わるはずもなく、ただ少女を目にしているだけだったが、この形相はそう捉えられた。
少女は「真の名」が何を指すのか、その意味を知らない様子だった。
「世界」を、鬼である我以上に知らない様子だった。