追憶 ―箱庭の境界―


『…定メニ従ッテイル…』

其れは変わらぬ答え。
少女にも問われ、返した我の同じ言葉。


『…鬼さんよ、お前さんが動けるのは決められた庭の中…』

『………』

『ここは、箱庭の境界…。境界を越える事は許されねぇだろうが…』

風はそう言っては、
我を河へ河へと押し戻す。


『…我ハ掟ニ背イテハイナイ…、境界ヲ越エテハイナイ…』

そう答えながら、
吹く風に我は身を任せた。


『…確かに越えてはねぇけどな、近付き過ぎ。危なっかしくて、見てらんねぇよ…。焦げてるじゃねぇか。』


花の匂いを纏う風。
其れは、「運命を正す」風…


『…別ノ風ガ告ゲタ、行キ先無キ者ヲ迎エル為…』


『…熟れ過ぎた赤い実を残したまま、器である体を燃やして無くしちまう馬鹿はいねぇよ…。お前さん、名は…?』

『…我ハ鬼。名ハ無イ…』


風が我に問う。
我が少女に向けた同じ言葉。


『……真の名は――?』

『…解ラナイ、我ニハ無イ…』


我は、鬼。
中身を無くした我に、
『真の名』は存在しない。


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