追憶 ―箱庭の境界―


『…赤い実は熟してるってのに、まだ思い出さねぇか…?手の掛かる頑固な鬼だなぁ。世代交代をする中で何故、お前さんが鬼の族長にまで位を上げてしまったのか…解らねぇか?』

『…定メ故…』


『…違うだろ…。行き先を無くした者を追い掛けて、その手で捕まえる…。そうして世代交代がされる定め。それを、お前さん自身が拒むんだ…』

『…定メヲ拒ンデハイナイ…』


我は追い掛けていた。

恐れられようと、
拒まれようと…、
繰り返される永遠の中で、
草原が拡がる此の箱庭で。


『…他の鬼は、目的の為だけに死に物狂いで標的を追い詰めるよ…。それをお前さんは、しない。何故か…解るか?』

『…解ラナイ…』

此の風は、我に何を伝えようとしているのか。
我に、何が足らないのか。

風は大きな溜め息をついた。


『…ふぅ。それになぁ、箱庭から解放される為の、もう1つの方法も…お前さんは試そうとはしねぇ。何時まで箱庭で繋がれてるつもりだよ…』

『…………』

気が付けば眼下の河は終わり、風に流され続けた我は、ついには普段通りの草原へと運ばれていた。

其の草原は、
少女と出逢った、

赤い実が揺れる樹の下。


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