追憶 ―箱庭の境界―
風は言う。
『…ほら見ろ。お前さんの赤い実が熟れて揺れている。』
見上げれば、其処に在る赤い実が揺れている。
しかし沢山在る赤い実の中で、何故…此れが我の物だと解るというのか。
『…考えろ。何故、箱庭に繋がれたままなのか…!』
『…考エ…ル…?』
『そうだ!考えろ!』
風が我に強く吹く。
赤い実が風に煽られ、ユラユラと今にも落ちてきそうな様を、我は見上げていた。
『……我ニ…感情ハナイ…』
繰り返される永遠は、
我に与えられた唯一の「定め」。
何も感じない。
何も、解らない。
『…お前さんは、弱虫だな?』
『…ヨワ…ムシ…?』
感じない、はずだった。
解らない、
其のはずだった。
『…もう少し、時間が掛かりそうだ。解るまで、情景を見続けたらいい…。』
『……其レガ定メナラバ…』
『…事の終結が…お前さんの始まりなのだから。』
箱庭に、花は無い。
風が連れてきたのは、
此処に在るはずのない花の香りと…、
『……ヨワ…ムシ…?』
夜に訪れるはずの…
昼間に見るはずの無い、
あの少年の、
「情景」の続きだった…