追憶 ―箱庭の境界―


「…やだ、ちょっとぉ!」

そう嫌がる女が少年の白い魔力に包まれると、本来の姿へと変わった。

其の女は、少年が抱えられる大きさの黒い「猫」。


にゃぁ…
『もぅ…急に戻すなんて酷いわね。前のご主人様は人の姿で甘えたら喜んでたわよ?やっぱり子供は扱いにくいわね…』


美しい黒い毛並みに、
妖艶な琥珀色の大きな瞳。

気難しそうな黒猫が、少年の腕の中で不機嫌に鳴いている。



忍び込んだ貨物室の隅に居たのは、人に慣れた上品な猫。

ウィッチには産まれながらに動物の言葉が理解出来る為、船旅の暇潰しにと猫から少年に近付いた。

聞けば主人を無くした放浪猫。

「以前は主人の魔術で、よく人の姿で過ごしていた」という話から、猫から其の術を学び、実際に試して現状に至っていた。


にゃぁ…
『…ウィッチに黒猫は付き物よ?アタシを連れていって損はないわよ?ねぇ…?』

猫は少年の膝の上で、すました様に首を傾げた。

少年が持つのは白い魔術。
色付きのウィッチに敵わないとはいえ、白い魔力すら使い切れていない少年にとっては都合の良い話。


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