追憶 ―箱庭の境界―
黒猫は魔術を使えないとはいえ、元々の主人が凄腕だったらしく、少年に無い知識を沢山持っていた。
にゃぁ…
『…力が、欲しいでしょう?貴方ひとりじゃあ、…ねぇ?』
黒猫は自分の手を舐めながら、ちらりと流し目で少年の顔色を伺う。
(…悔しいけれど…)
(…確かに。)
少年に魔術を教えてくれる者は、もう居ない。
『…王女を自由にしてあげたいんでしょう…?その方法は~?どうするのかしら…?』
王女を自由にする。
彼女が其れを望んでいるから。
其れを実現する為に、少年は『力』を得る必要があった。
(…地位も名誉も、魔力も…ありとあらゆる力が欲しい…!)
あんな思いは沢山だった。
自分の無力が許せなかった。
自分は弱虫のまま、このまま引き下がってなるものか。
今此の時でさえ、王女は鳥籠の中で泣いているに違いない。
少年の青い強い瞳。
「…僕はマルク。猫さん、貴女の名前は…?」
少年が差し出した手のひらに、猫は喉元を擦り付けながら、
『…うふふ、好きに呼んで?頭の回転は早いみたいねぇ?ご主人様。うふふ、…教えがいがあるわ?』
ゴロゴロと喉を鳴らした。