追憶 ―箱庭の境界―

10・『 真実と偽りの狭間 』

10・『 真実と偽りの狭間 』



少年は黒猫に育てられ、
少しずつ彼女好みの｢器用な青年｣へと成長し始めていた。



｢…それじゃあ、先生方。書庫の整理を終えましたので、僕は失礼します。｣


青年が居るのは、
海辺の国シオンの城の地下。

城に仕える年配者のウィッチに混じり、其の彼らの助手として、時折仕事を任せられていた。


｢あぁ、もう終えたのかい？相変わらず仕事が早いな…、助かるよ。｣

｢いいえ、少しばかり魔術を使っての反則技でしたから、褒められる事ではありませんよ…｣

青年は控えめな態度で、柔らかな表情をして笑っていた。

書庫の扉の鍵を青年から受け取りながら、年配のウィッチは満足そうに目を細めた。


｢いつも雑用ばかりで悪いな。｣

｢いえ、書庫には為になる魔術の文献ばかりですから楽しいですよ。読ませて頂けるだけ僕は幸せです。｣

｢そうか…｣

シオン国の魔術の最前線。

サザエル程に魔術文化が栄えた国というわけではない。
加えて、其の書庫には国の機密となり得る文献は置かれてはいない。

其れでも、より多くを吸収したい青年にとっては都合の良い場所だった。