追憶 ―箱庭の境界―
しかし我が教える事もない。
「聞かれた事を返す」、
我が話すべきは其れだけ。
『…我ニ感情ハ無イ…』
少女は、きょとんと目を大きく我を見つめた。
「…鬼さん、感情が無いの?だから怒ってないって言いたいのね?無い物ばかりで可哀想ね?どうして無いの?」
『…其レガ、心ヲ奪ワレタ我ラ鬼ノ定メ…』
「……?いつから無いの?」
『…遥カ昔。シカシ、コノ世界ニ、時ハ無イ。』
「…心は、誰に奪われるの?」
『…世界ニ…』
「……なぞなぞ、みたいね。」
『…謎デハナイ。我ハ、全テ真実ノミヲ語ル…』
少女の顔色は曇っていった。
世界の理を呑み込めずにいた。
我は聞かれた事のみを返す。
我が長きに渡り「人と話す」のは珍しい事だった。
それだけ、少女から出る我に向けた疑問が多かったからだ。
我を怖がりもせず、
少女は未だ質問を続けた。
「…じゃあ…、そうね。奪われた心は、どこに行くの?」
其の質問に、
我は赤褐色の指と長い爪を伸ばし、目の前に立つ樹を差した。
草原に立つ一本の大きな樹。
風に揺られ、
樹は其の存在を大きくする。