追憶 ―箱庭の境界―
(…優等生、ですか…)
昔と何ら変わりない。
幼少時代、青年は大人たちの環境に交ざり、宿屋で下働きをしていた。
其れが当たり前だった。
其れ以外生きる術は無かった。
今も尚、年配者に交ざり上手く世を渡る生活は変わらない。
自然と其の術は心得ていた。
昔と違う事といえば、
此の場所が「町の中心」であるという事。
もう町の外れの日陰の暮らしではなく、町のより中心で其れなりの人望を得ていた。
「――あら、マルク!」
広場に差し掛かると、女性が嬉しそうに青年に声を掛けた。
「あぁ…」と女性に会釈すると、女性は手に持つバスケットを揺らしながら、小走りで青年の元へ駆け寄って来た。
「…すれ違いになっちゃった。今からお父様に昼食を差し入れに向かうところなの。」
「あぁ、そうでしたか…。いつも御苦労様です、リエル。」
彼女の名は、リエル。
いつかの王女とまではいないが、上品な衣に身を包んだ穏やかな笑顔。
其の彼女に青年は白々しく笑顔を返す。
リエルの父は城に仕えるウィッチの1人であり、先程青年が書庫の鍵を返した人物だ。
今日、彼女が来るであろう事は、青年はすでに予測していた。