追憶 ―箱庭の境界―
「今日は早かったのね?昼食をしながら貴方とお話ししたかったのに。」
「…えぇ、すみません。」
彼女は走って乱れた髪を気にする素振りを見せ、上目遣いで青年を見ていた。
(…貴女と会わないように、あちらを早く出たつもりだったんですが…ね?)
そんな心とは裏腹に、
彼女の視線をも優しく包み込む様な、青年の穏やかな表情。
彼女が勘違いをしてしまうのも無理はない。
「…ねぇ、考えてくれた?」
「何を、ですか?」
青年は彼女が聞きたい答えを知っているが、わざわざ首を傾げて見せた。
「…もう、意地悪ね?お父様が褒めていたわ。貴方がとても優秀で、是非とも自分の跡を継がせたい…って。お父様は私の味方よ?婚約の事…」
「…あぁ、その話ですか…」
彼女と接点を持ったのは、彼女の父が城に仕えていた事が理由だった。
青年は思惑通り、彼女を通して目的を果たしていた。
(…困りましたね。だから会いたくなかったんですが…)
青年は困った表情をして、柔らかに微笑んでいた。
目的を果たせれば、彼女でなくとも良かった。
其の候補の中で「王女と名前が似ていた」という理由で、青年の目に止まっただけの事だ。