追憶 ―箱庭の境界―
「リエル?僕には勿体無い位に、貴女は素晴らしい女性です。しかし前にも言いましたが、僕には心に決めた方が居ます。それで貴女と婚約だなんて、貴女にも父上にも失礼でしょう?」
青年は肩をすくめて、悲しい表情で申し訳なさそうに笑った。
「……マルク…」
決して、嘘を付いてはいない。
ただ感情を隠して、なるべく波風が立たぬ様に言葉を選んで接しているだけの事。
(…ここで彼女と婚約をするわけにはいかない。僕らの計画は未だ先に進むのだから…)
彼女が納得してくれるのか、今後の関係に影響が出ないか。
青年が瞳を落とす彼女にどう声を掛けるべきか思考を巡らせていると、
「――あ!リエル!マルク!」
広場の中心部から駆け寄ってくる2人の女性に助けられた形になる。
「…リエル、また抜け駆け!?」
「許さないわよ?マルクは皆のマルクなんだから!こんにちは、マルク。」
彼女たちはリエルの友人。
リエルは顔を赤らめて、焦りながら言い訳を並べていた。
「こんにちは、お嬢さん方。」
此の場の空気が明るくなった事に、青年の心は軽くなる。