追憶 ―箱庭の境界―


(…この隙に、早く退散した方が良さそうですね…)

3人は会話を弾ませながらも、リエルだけはチラチラと青年の様子を伺っていた。


「…お嬢さん方、アンを見ませんでしたか?広場で待っているはずなんですが…」

「…アン?」

「あぁ、アンネなら見たわよ?広場の脇のベンチで、ジャンと居たわ。口説かれてたわよ?」

青年は其の言葉に一瞬だけ表情を曇らせると、彼女たちに丁寧に挨拶し、其の場を後にした。


少し足を進めると、背後から彼女たちの囁き声が聞こえる。


「…今、珍しく一瞬嫌な顔をしたわよね?」

「やっぱり『心に決めた方』って、アンネの事なのよ…」

「でも…」

本人に聞こえているとは、彼女たちは気付いてもいない。

青年は其れをわざわざ否定する事もなく、少しの笑いを口元から漏らしながら、そのまま広場脇へ足を進めた。


(…あれでも彼女たちも同じウィッチなんですが、ね…。こうも違う…)

ウィッチは、周囲の空気や気配に敏感である。
自らの「血」が感じ取る。

音も、空気の振動。

白い魔力とはいえ日々の志を高く持つ青年にとって、少し距離の離れた噂話も、耳元で囁かれるかの様に鮮明に聞こえた。

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