追憶 ―箱庭の境界―
広場の脇にある小道。
其れは、海岸へと続く道。
綺麗に舗装された広場とは違い、黄色の砂利道からは海風に吹かれて時折砂が舞う。
潮の匂い。
海鳥の鳴き声。
小道の脇には、
青々とした植物の緑の茂み。
其の影に隠れる様に在る、白く塗られた木製のベンチ。
其のお気に入りの場所で、
青年の膝枕で昼寝をする事が、彼女は好きだった。
「……だから…言ってるじゃない。あたしは子供には興味が無いの。出直してらっしゃい?」
「アンネ…、子供って言っても、俺はマルクより年上だぜ?」
「あら、あたしは中身の話をしてるのよ…」
彼女の酷く不機嫌な声。
面倒な事になりそうで、青年は近付くのを躊躇い、一度足を止めた。
先程の彼女たちの話で一瞬だけ表に出してしまった表情は、
『想いを寄せる女性に、口説き寄る悪い虫がついたから』など、可愛らしい色めいた理由ではなかった。
(…また…昼寝の邪魔でもされたのでしょうね…)
艶やかな黒い長い髪に、黒い衣に全身を包んだ彼女は、まるで位の高いウィッチの様に上品に振る舞う。
しかし彼女は青い瞳は持たず、妖艶な琥珀色の瞳で男たちを虜にする。