追憶 ―箱庭の境界―
「……この樹…?」
『…其ノ実ハ、我ラノ心…』
樹は、赤い実をつけていた。
幾つも幾つも。
それは数えきれぬ程に風に揺られる、我らの魂。
「…奪われた心が、この赤い実なの?こんなに沢山?全部、貴方のなの?」
『我ノ心ハ其ノ内ノヒトツ。』
「…他にも鬼さんみたいな仲間が沢山いるって事ね?一人じゃないなら、寂しくなくて良かったわね?」
『…………』
「この広い草原に1人じゃ、悲しいものね?」
『…………』
我は「寂しい」が解らずに、質問に答えずにいた。
「悲しい」が解らずに、ただ風に吹かれる少女を見ていた。
少女は話し続けた。
「…赤い実。林檎に似てるわね?知ってる?『知恵の実』っていうアダムとイブが食べちゃった木の実のお話。アダムとイブっていうのは、神話に出てくる最初の人間よ?」
『…………』
「…知らないのね?アダムとイブは、その実を食べちゃったから神様の怒りをかって楽園を追放されたのよ?そのお話にちょっと似ていると思わない?」
『………』
少女が何を言わんとしているのか、我には解らなかった。
「…あの実、食べちゃダメなの?食べようと思わないの?」